41時間だけの
家族


あー様の描いたちびちゃん


6月15日金曜日、学童にあー様を迎えに行ったら、子猫がいた。
下校時、子供たちが学童に行く途中の駐車場脇の草の中にいたらしい。
野良や放し飼いの母猫が置いたとは考えにくい場所。
あきらかな捨て猫。
見たところ生後1〜2日目ぐらい。
しかも体はかなり小さめで、ハムスターぐらい。
バケツの中にタオルをひいた上にいるその子猫は、いかにも弱々しい。
リボンとマフラーが生まれた時とは全然違う。

あー様は「ウチに連れて帰ろうよ〜」と言う。
私もホントはそうしたい。でも…
今いる3匹におもちゃにされないだろうか。
それに、連れて帰ってすぐ死んじゃったら…

さんざん迷ったあげく、連れて帰ることにした。
猫好きの弱み(?)、見たらダメだった…
見捨てて帰るなんて、とても、とても…
このまま帰ったらきっと後悔する。

家に帰って猫用ミルクを飲ませてみた。
口に入れてやると、なんとかピチャピチャという感じ。
はじめはスポイトでやってみたがどうも上手く飲ませられないので、
猫用哺乳瓶を使って、口のところで乳絞り状態で飲ませると上手くいった。
何度目かの授乳から少しだけ自分でくわえてくれたりした。
「お願いだから元気になってぇ〜」と、祈るような気持ちでミルクを飲ませた。
翌日仕事だったが、ミルクを飲ませるためにお昼にわざわざ家に戻った。
(車で片道30分)

鳴き声にも元気が出てきた。
ジタバタする手足の力も昨日よりははるかに強い。
コレなら大丈夫かも。
うん、大丈夫、元気になる、そう思った。
2日目の深夜、そう思って寝た。

朝起きてまずミルクを飲ませようと見に行った。
あれっ?なんかヘン、動きがにぶい…
触ってみると冷たい。
しまった、体温が下がってる。
朝方けっこう寒かったから…
ミルクを飲ませようとしたがほとんど飲まない。
それに、昨日みたいにミルクを飲む時のジタバタがない。
どうしよう〜〜〜

とりあえずあっためてやらないと。
両手の手のひらの中にすっぽり隠れてしまうくらい小さな子を抱いて、
とりあえず私のベッドへ。
「ゴメンね、ゴメンね、寒かったね」
何度も謝って、必死で暖めたけど、どんどん弱っていくのがわかる。
昨日は元気に鳴いていた声が、かすれてほとんど声になってない。

近所の動物病院が日曜日も午前中診療してるから行こうかと思った。
けど、もうすでに私の中であきらめの気持ちのほうが強かった。
病院に行ってももうダメだと…
病院に行けばなんとかなるかもという気持ちより、
こんな状態になってしまった子に何が出来る?と…
とにかく抱いていてやりたかった。

薄情なあー様は「遊びに行ってきていい?」と言って遊びに行ってしまった。
「携帯持っていくから〜」

私の手の中でどんどん体の力が抜けていく。
ほとんど動かなくなってきた。
「ちびちゃん、ちびちゃん」と声をかけ、なでてやると少し動く。
まだ名前のない子に「ちびちゃん、ちびちゃん」と呼び続けた。
『ちびちゃん』も声にならないかすれた声で、「ア…ン」と何度か鳴いていた。

何度目かの「ア…ン」で『ちびちゃん』の全身の力が完全に抜けていった。
この時点では『ちびちゃん』が死んだとはまだ思っていない私。
でも『ちびちゃん』はもうまったく動かない。
脈を診ようと思ったが、パニクってる私には、
脈が自分のものか『ちびちゃん』のものかわからない。
数分後やっと『ちびちゃん』が死んだのだとわかった。

10時10分過ぎ、ちびちゃんは私の手の中で息をひきとりました。
我が家へ来て約41時間、たった3日程の短い一生でした。

我に返って、あー様の携帯にすぐにTEL。
出た!と思ったら、何やらあー様の声は聞こえるが、
そのまますぐにキャッチに切り替わる。
スイッチにたまたま触っただけか…
もう!こんな時に…
もう一度かけると今度はちゃんと出て、「ネコちゃんは?」とあー様。
一瞬答えに詰まる私。
「死んじゃった… すぐ帰ってらっしゃい…」
「え〜〜〜っ…」

あわてて帰ってきたあー様は、もう動かなくなった『ちびちゃん』をしばらく抱っこした後、
『ちびちゃん』を入れていた箱にお気に入りの便箋にシールを貼った
お手紙を入れてあげていた。
さらに自分で作ったネックレス、鶴を2羽折って入れてあげていた。
「もう寝かせてあげなさい」と言っても
何度も箱から『ちびちゃん』を出して抱っこするあー様。

あー様と相談して、『ちびちゃん』は
以前飼っていた猫のお葬式をしてもらったお寺へ連れて行って、
お葬式をしてあげることにした。
火葬場に持っていって火葬だけしてもらうこともチラッと考えたが、
たとえ41時間だけであっても縁あって我が家へ来た子。
我が家の猫としてきちんとお葬式はしてあげたかった。
他人から見ればバカみたいかもしれないけど、
たった1日半、ミルクを飲ませてウンチ&オシッコの世話をしただけでも、
しっかり情が移ってしまったのだ。
もう私の家族になっていた。

お寺に着いて車を降りてあー様を見たら、涙をポロポロ流して泣いていた。
箱を大事そうに抱え、駐車場から境内に入っていく姿を見れば、
ペットが死んでお葬式のために連れてきたのは一目瞭然。(このお寺の場合)
すれ違った見知らぬおばさんが、あー様の頭をなでてくれた。

お寺で申込書を書く時、名前もまだ付けていなかったので、困ってしまった。
結局、私が最期に呼び続けた『ちびちゃん』にした。

申込みをする時、合同葬にするか個別葬にするか決めなければいけない。
以前飼っていた猫は個別葬にして、お骨もそこの動物霊園に納骨してあるのだが、
これだけ小さな子、火葬すればほとんど骨は残らないだろう。
かえってそれがつらいと思ったので、合同葬にすることにした。
合同葬の場合はまとめて火葬し、
お骨はお寺の中の観音様のところに埋葬されるのだそう。

待っている人(ペット)が何組かいたので、
待っているうちにあー様は退屈してウロウロしはじめた。
さっきまで泣いてたくせに〜〜〜
結局1時間以上待っていたので、仕方がないか…

私は自分の座ってる横に箱を置いて、ずっとちびちゃんの顔をながめていた。
お寺の人が布をかけてくれたが、少しだけめくって。
赤身の強いピンク色だった唇が、もう紫色になっていた。
やっぱりほんとに死んだんだね。

やっと順番が来て、あー様と祭壇の前で待っていると、
「ラッキー(前の猫)とおんなじ形の入れ物に入れてくれるんだよね?」
と聞くので、合同葬のことを話したら、
観音様が何かわからないあー様は猛反対。
「ラッキーとおんなじようにしたい(骨壷に入れてあげたい)!」といってきかない。
お坊さんのお経が終わって、これで最後のお別れという時に、
泣きながら、その場を動こうとしない。
お寺の係の人も困ってしまっているし、次の葬儀の人(ペット)も待っている。
結局、もし骨が残ったら骨壷に入れてあげようねとウソをついて、
その場をなんとかおさめてしまった。

その後、あー様を観音様のところに連れて行き、
「合同葬のワンちゃん、ネコちゃん達はここの下に入るんだよ。
 そうしてみんな土に還るんだよ」と説明した。
そしたら、「ここだったらいい、さっき遊んでた時ここがいいと思ってたの」
どうも敷地内の別の石碑とカンチガイしていたらしい。
でもやっぱり、「もし骨が残ったらちゃんと(骨壷に)入れてくれるんだよね」と念を押された。
「みんな一緒に燃やすのに、どうやってちびちゃんの骨だけ分けるの?」
と帰る途中にも聞かれて困ってしまった。

ウソをつくのは悪いと思ったが、
小さすぎる体で、ほとんど残らないであろうお骨を見るのがつらいので…
かといって今あー様にそれを納得させようとする気力が、
今の私にはなかった。
いつかあー様は理解してくれるだろうか。

時間が経つにつれ、またしても捨てた人に腹が立ってきた。
もちろん配慮の足りなかった自分にも…
でもせめて母猫と一緒にいれば、
ちびちゃんは死なずにすんだかもしれないのに…
せめてもう少し育ってからならば、私もちびちゃんを助けられたかもしれないのに…

お寺の動物霊園にはたくさんの動物が納骨されていて、
動物のお墓(室内のマンションタイプ)もある。
順番を待っていた場所にはたくさんのペット達の写真が飾られていた。
『享年○歳』『ありがとう』『安らかに』などいろいろ書込みされた写真。
十何年も生きた犬&猫たちがほとんど。
中には23歳というネコちゃんもいた。
逆に1ヶ月という子猫の写真も…
でも、みんな家族として暮らし、最期をみとられ、ここで眠っているのだろう。

なのに、一方ではひどい扱いを受ける動物達もいる。
どうしてそんなことをするのか私には理解出来ない。
しかし、私にはどうすることも出来ない。
ちびちゃんにも何もしてあげられなかった。
ほんとにそれがくやしい。
それとも、私が下手に世話をしたために、
余計長くちびちゃんを苦しめてしまったんだろうか?

たった3日、まだ目も開かないまま逝ってしまったちびちゃん。
何も見ることも、ジャレて遊ぶことも知らずに。
ミル達が毎晩のように繰り広げる大運動会も…



ちびちゃん、ゴメンね。
何もしてあげられなかった私を許してね。
せめて天国では元気に運動会やってね。